大阪市下水道科学館

イベントレポートEVENT

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公開:2023.09.23 10:57 | 更新: 2023.11.19 07:42

JICA海外協力隊に聞く!「地球の裏側の下水道事情」~エクアドル編~—イベントレポート

(開催日:2023年9月10日)

「下水道の日」がある9月。大阪市下水道科学館では、JICA関西と一緒に世界の下水道に注目した様々な企画を実施。
JICA海外協力隊員のお話や各国のマンホールフォトを通じて、海外の下水道の現状や日本との違いを知り、日頃あたり前のように使っている下水道について、改めて考える機会としています。

  • * * *

9月10日の『下水道の日』当日には、JICA海外協力隊としてエクアドル共和国の上下水道公社で活動された新井総明さんをお招きしてのトークイベントを開催しました。

元JICA海外協力隊員 新井総明さん

新井さんと一緒にお話いただくのは、大阪市建設局下水道部調整課の上杉さん。上杉さんは大阪市の下水道事業に長年携わり、マンホールにも詳しい方で、今年3月に「プロに学ぶおしごと講座『マンホールのふたの話』」でご登壇いただきました。

大阪市建設局下水道部調整課 上杉和弘さん

エクアドルは日本から見てちょうど地球の反対側。今回は、エクアドルの下水道事情を知り、日本の、そして大阪の下水道についても知る機会になればと思い、お二人にお話しいただきました。

まずはJICA関西 トランティ美佳さんより、新井さんがエクアドルに行かれたJICA海外協力隊という制度をご紹介。

JICA関西 トランティ美佳さん

世界には196か国があり、そのうち約7割が開発途上国と呼ばれています。開発途上国では水がない、栄養が足りない、学校へ行けないなど様々な課題があり、その課題解決に向けて日本はODA(政府開発援助)により、開発途上国を支援していて、その中の1つにJICA海外協力隊があります。

新井さんは55歳で協力隊に参加され、それまでの下水道のご経験を生かしてエクアドルの上下水道設備の向上を目的に、2年間活動をされました。

今回は下水道のプロお二人によるディープなお話。ご参加のみなさんには、思わず友達やご家族に教えたくなるような、うなずいてしまうような時に上げていただく「へえ~」の札をお渡ししました。

札をあげて気持ちを表現していただきます

トランさんから『下水道の日』やJICAの取り組みについてお話があると、さっそく札がたくさん上がっていました。

では、いよいよお二人の対談のスタートです!

会場のみなさんにも参加いただきクイズも交えながらまずはエクアドルの場所からご紹介。

高校生から大人まで、様々な方がご参加

南米に位置し、あの有名なガラパゴス諸島があるのはエクアドルなんですね。ちなみにエクアドルはスペイン語で「赤道」という意味らしいですよ。首都キトには赤道が通っているとのこと。

エクアドルはここにあります

新井さんは首都キトの上下水道公社で水道メーターの管理や、下水本管の家からの引き込みや家庭内の配管補修サービスなど、多岐にわたって下水事業の技術向上に関する業務を行ってこられたとのこと。

新井さんにエクアドルに行って驚いたことをお聞きしました。

1つめの驚き、マンホールのふたがなくなっているのは盗まれるからだそうです。売るとお金になるからなんですね。

マンホール1つからもその国の情勢がわかります

やはりマンホールのふたがないと危険で、補充してもまた盗まれる、といういたちごっこのため、2年ほどヒンジ(ちょうつがい)を付けて対策されるようになったそうです。

上杉さんによると、日本でも第2次世界大戦前には同じような理由でマンホールのふたが盗まれることがあったとのこと。戦後はそういったことは減りましたが、車が多く走るようになり、車が上を走るとマンホールがガタつくという理由から、今から約50年ほど前にちょうつがい付きのふたができたそうです。

ちなみに日本はその後、マンホールのふたが開くのを防止するため、ちょうつがいではなく内側から鍵をかけるタイプに変遷。

今では、ふたがしっかりとしまっていると、大雨の時など下水道管の中の空気が圧縮されて吹き飛ばされてしまうので、2㎝だけ開いて空気を逃すという仕組みのものがあるとのことでした。

すごい進歩ですね。

日本のマンホールの変遷ついて教えてくれた上杉さん

2つめの驚きポイント、エクアドルの首都キト市の下水道普及率は、約3%とのこと。ちなみに大阪市の下水道普及率は99.9%です。

キト市唯一の下水処理場

キト市の下水処理場は1つしかなく、約7万人の下水は処理できていますが、残る223万人の人たちの下水は川に流されてしまっているそうです。においもきつく、環境にも良くありません。

処理されない汚水が川へ

そんな状況の中、新井さんは日本がどんな材料を使って、どんな工法で工事をしているかを伝えることから始められました。

「当たり前を疑う」大切さについて

エクアドルの人たちは「どうしてその材料を使うのか」「どうしてそんなやり方をするのか」など質問が飛んできて、日本でやっていることが現地の人には”当たり前”のやり方ではないことに気づき、ご自身が『なぜ日本ではそのようにやっているのか』と知ろうとする、とても貴重な機会になったそうです。

下水道事業に40年以上関わってきて、初めての感覚で「どうやったら伝わるのか」「少しでも芽のあることを伝えたい」という思いから、ご自身の人生の中で一番下水道や仕事に向き合った時期だと振り返りました。

技術者ならではの視点

3つ目の驚きについては、日本の下水道がすごいと感じられたこと。

エクアドルでは歴史や経済の事情から、すぐれた人材を育てにくい現状があり、産業の発展が進まない悪循環が起こっていると感じられたそうです。そこから、改めて日本の今のくらし、きれいな水が使えてきれいに流れるという環境は、豊かな材料が手に入り、人材の育成を行ってきたからこそだと気づいたとのこと。

新井さんは、今後も日本だけではなくエクアドルでも継続して人材育成に力を入れたいと話されました。

ただやり方を教えるのではなく、「どうしてこの材料が使われているのか」「本当に費用対効果を考えてこのシステムを使うことがいいのか」などの観点でお話しすることを心がけているそうです。

「言葉も文化も習慣も異なる地で、とにかく自分ができることに取り組み続けた結果か、今でも下水や水道技術に関する質問をしてくれる現地の人がいることは嬉しい限り」とおっしゃる新井さん。

このような方がいらっしゃることが、日本やエクアドルの下水事業の発展につながると希望が持てました。

任期を終えた今でも現地の方から新井さんのもとへ質問が届くのだとか

今回のお話では、新井さんからは「外から日本を見る大切さ」を教えていただきました。また、上杉さんのお話からは、改めて日本の下水道が整備されているありがたさ、日本の技術の進歩も感じました。

質疑応答でも良いお話が聞けました

あっという間に楽しいお話も終わりを迎えましたが、参加者のみなさんからも「現地で実際に活動された方の言葉はとても深いものがあった」「日本に住んでいて当たり前と思っていたことが外国では当たり前ではないことが分かった」「日本の下水道設備のすばらしさを知ることができた」「知的好奇心を刺激されるようなトリビアが満載で楽しかったです!」などのお声をいただきました。

ご参加いただいたみなさん、とても実りの多い時間にしていただいた新井さん、上杉さん、そしてJICA関西さん、ありがとうございました。

一緒に学んだみなさんと